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大阪地方裁判所 昭和62年(行ウ)47号 判決 1988年11月29日

大阪市住吉区我孫子四丁目一三番四五号

原告

(選定当事者)

北野良作

大阪市住吉区住吉二丁目一七番三七号

被告

住吉税務署

太田敬紀

右指定代理人

佐藤明

国府寺弘祥

西尾了三

田中猛司

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告

一 被告が昭和六〇年一〇月三〇日付けで北野藤治郎の昭和五八年分の所得税について原告および別紙選定者目録記載の各選定者に対してした更正処分および過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

二 訴訟費用は、被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

二  原告の請求原因

1  原告および別紙選定者目録記載の各選定者(以下、これらを合わせて「原告ら」という。)は、いずれも北野藤治郎(昭和五九年一二月二三日死亡。以下、「藤治郎」という。)の共同相続人であるが、藤治郎が昭和五八年分の所得についてした確定申告、これに対する被告の更正処分(以下、「本件処分」という。)、過少申告加算税賦課決定処分(以下、「本件決定」という。)および異議決定ならびに国税不服審判所長がした裁決の経緯および内容は、別表1記載のとおりである。

2  しかしながら、本件処分は、藤治郎の分離長期譲渡所得を違法に認めたものであるから違法であり、したがつて、本件処分を前提としてされた本件決定も違法である。

3  よつて、原告は、本件処分および本件決定の各取消を求める。

三  請求原因に対する被告の認否および主張

1  請求原因1の事実は認め、同2の主張は争う。

2  藤治郎は、昭和五八年一二月二三日にその所有にかかる別紙物件目録一記載の土地(以下、「本件土地」という。)を北野商事有限会社(以下、「北野商事」という。)に三六〇〇万円で譲渡した(以下、「本件譲渡」という。)。

被告は、本件土地の適正価額(以下、「時価額」という。)を五六七六万七七八八円と認定し、本件譲渡にかかる譲渡価額(以下、「本件譲渡価額」という。)がこれを大きく下回ることにつき経済的合理性が認められないこと、北野商事は法人税法二条一〇号に規定する同族会社であり、譲渡人である藤治郎は北野商事に対し、所得税法施行令二七五条一号に規定する「当該株主又は社員の親族」にあたることから、本件譲渡価額が、その人的な特殊事情を反映させた恣意的な価額であり、これに基づいて分離長期譲渡所得の金額を計算すれば、藤治郎の所得税の負担を不当に減少させると判断し、所得税法一五七条を適用して本件処分および本件決定をした。

3  藤治郎の昭和五八年分の分離長期譲渡所得金額は、六二一八万七四五二円であるから、この範囲内で同所得金額を認めた本件処分およびこれを前提とする本件決定に違法はない。

4  藤治郎の昭和五八年分の分離長期譲渡所得金額の内訳明細は別表2記載のとおりであり、各項目の算出根拠は、次のとおりである。

一 時価額

本件土地ならびに別紙物件目録三ないし七の各土地は、いずれも分筆前の大阪市住吉区苅田七丁目八一番二宅地、八五三・五七平方メートル(以下、「分筆前の敷地」という。)の一部であるが、右の各土地の時価額は、五億八八九六万円である。したがつて、本件土地の時価額は、右時価額に本件土地が分筆前の敷地中に占める面積の割合を乗じた金額である。

二 取得費

本件土地は、藤治郎が昭和二七年一二月三一日以前から引き続き所有していたものであるから、その取得費は、租税特別措置法(以下、「措置法」という。)三一条の四第一項により、右一の時価額の一〇〇分の五に相当する金額である。

三 譲渡費用

本件譲渡の契約書に貼付した収入印紙代である。

四 買換資産の取得価額

藤治郎は、措置法三七条四項一項により、本件譲渡にかかる特定事業用買換資産として別紙物件目録二記載の建物を取得したが、その取得価額は、(1)株式会社松本組に支払つた建築費三三五〇万円、(2)高野建築設計事務所に支払つた設計費用一〇〇万円、(3)佐藤司法書士に支払つた登記費用一一万五六〇〇円および(4)藤原測量登記事務所に支払つた測量費等七万円の合計額である。

五 収入金額

右一から右四を控除した金額である(措置法三七条一項、同法施行令二五条四項)。

六 必要経費

右二および三の合計額に右五が右一に占める割合を乗じたものである。

七 譲渡価額

右五から右六を控除した金額である。

5  原告らは、いずれも藤治郎の相続人として、別表8記載のとおり、同人にかかる右租税債務を承継した。

四 被告の主張に対する原告の認否および反論

1  被告の主張2の事実は認める。

2  被告の主張3は争う。

3  被告の主張4について

一 同冒頭部分の事実は否認する。

二 同一のうち、本件土地が分筆前の敷地の一部であることは認め、その余の事実は否認する。

三 同二のうち、藤治郎が本件土地を昭和二七年一二月三一日以前から引き続き所有していたことは認め、その余の事実は否認する。

四 同三および四の各事実は認める。

五 同五ないし七の各事実は否認する。

4  被告の主張5のうち、原告らが藤治郎の相続人であることは認め、その余は争う。

5一 本件土地は、藤治郎が北野商事に建物所有目的で賃貸した分筆前の敷地の一部で、藤治郎は北野商事から相当の地代を受領していたから、本件土地の時価額の算定にあたつては、右借地権の存在による減価を考慮しなければならず、このことは、権利金の授受の有無には関係がない。ところが、被告は、右借地権による減価を一切考慮せずに、本件土地の時価額を決定している。

二 かりに、右主張が認められないとしても、本件土地の時価額の算定にあたつては、同土地が分筆前の敷地の一部で角地ではないことや土地上に建物が存在すること等が考慮されるべきである。そして、藤治郎が確定申告前に予め被告の指示に基づき付近の不動産業者に本件土地の時価額を尋ねたところ、更地価格が坪あたり一五〇ないし一六〇万円であるから、建付減価を考慮すれば坪あたり八〇万円である旨の回答が得られたことならびに本件土地の相続税評価額は一八五〇万円であり、時価が相続税評価額の通常二倍前後とされていることに照らせば、本件譲渡価額は相当である。

三 よつて、本件処分には、本件土地の時価額の評価を誤つた違法がある。

五 原告の反論に対する被告の認否及び再反論

1  原告の反論5は争う。

2一 北野商事は、昭和五七年九月一日に建物の所有を目的として藤治郎との間で分筆前につき賃貸借契約を締結したが、その際藤治郎は、北野商事から権利金を一切収受せず、年間の賃料は分筆前の敷地を更地とした相続税評価額の八パーセント相当の九六三万円としている。そして、北野商事では、右借地権を取得したとの経理処理も行つていない。

よつて、これらに照らすと、本件土地の時価額の算定にあたつては、右借地権の価格を考慮する必要はない。

二 かりに、付近の不動産業者が原告主張の説明をしたとしても、それは、本件土地の周辺地域の借地権価格は更地価格の五〇パーセント程度であるから、底地価格は更地価格の半分位になるとの一般的傾向を示唆したものにすぎないから、右説明から直ちに本件譲渡価額が相当であるとはいえない。

三 さらに、分筆前の敷地は、全体として建物の敷地に利用されているから、本件土地を独立して評価することは相当ではない。

四 したがつて、原告の反論は、いずれも信用できない。

六 被告の再反論に対する原告の認否

1  被告の再反論2一前段の事実は認め、同後段の主張は争う。

2  同二ないし四の各主張は争う。

七 証拠

1  証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録および証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  請求原因1および被告の主張2の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件処分等の適否について判断する。

1  藤治郎の昭和五八年分の所得税にかかる総所得金額が九八五万円であることは、当事者間に争いがない。

2(一)  いずれも成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証および第七ないし第一三号証(乙第七および第一一号証は、いずれも原本の存在も争いがない。)、鑑定の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 分筆前の敷地は、地下鉄我孫子駅の南東に近接し、周辺地域は中層事務所、店舗等の業務商業施設の中に中層マンシヨン等が混在する駅前商業地域を構成し、近隣商業地域の用途指定が行われている。そして、分筆前の敷地は、間口約一八メートル、奥行約三〇メートルのほぼ長方形をして、その実測は不動産登記簿上の地積八五三・五七平方メートルに見合つており、南側で幅員約一五メートルの、東側で幅員約八メートルの各舗装道路に接しており、現在は、北野商事所有にかかる鉄筋コンクリート造陸屋根六階建店舗兼共同住宅の敷地として利用されている。

(2) 分筆前の敷地のもと所有者であつた藤治郎は、同土地を駐車場として利用していたが、昭和五七年三月一〇日にこれを本件土地を含め六筆に分筆し、同年九月一日に北野商事に対し、建物所有の目的で賃貸し、まもなく前記店舗兼共同住宅が建築された。藤治郎は、右賃貸借契約締結にあたつては、北野商事から権利金を一切収受せず、賃料は当初年九六三万円とし、その後は分筆前の敷地を更地として評価した価額を基礎として計算される相当の地代によることとしていたが、北野商事は、権利金を支払わなかつたことにつき、藤治郎から権利金の額に相当する利益を自ら設定し、収益に計上する経理処理をしていない。

なお、北野商事は、藤治郎の長女である選定者北野カヅヱの夫であり、藤治郎の養子でもある選定者北野作二が代表取締役をしており、会社の所在地は、藤治郎および作二の住所地にあつた(右前段の事実は、分筆前の敷地のもとの利用状況および分筆の点を除き、当事者間に争いがない。)。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  前掲甲第一号証、鑑定の結果によると、(1)大阪国税局長から分筆前の敷地の時価額算出の依頼を受けた大阪不動産鑑定株式会社所属の不動産鑑定士である北岡正明および竹島敏夫は、取引事例比較法によつて算出された比準価格を収益事例による収益価格および類似地域内の地価公示標準地による規準価格に照らして修正し、分筆前の敷地の昭和五八年一二月二三日時点における更地価格を五億八八九六万円と算定したこと。(2)不動産鑑定士である鑑定人松宮恵司は、比準価格を規準価格により修正し、分筆前の敷地の右時点における更地価格を五億四六二八万四八〇〇円と算定したことが認められるところ、右甲第一号証および鑑定の結果の記載に徴すると、それぞれの評価にあたつて斟酌された基礎資料およびその判断の過程に不合理なところはないということができる。

(三)  ところで、北野商事が法人税法二条一〇号に規定する同族会社であり、藤治郎が北野商事に対し、所得税法施行令二七五条一号に規定する「当該株主又は社員の親族」にあたることは、前記認定に照らし明らかであるが、これによれば、本件譲渡価額は、藤治郎と北野商事との人的な特殊事情を反映して決定された価額で、時価、すなわち、、自由市場において市場の事情に十分通じ、かつ、特別の動機を持たない多数の売手と買手とが存在する場合に成立すると認められるその時点の客観的な価額とは認められないから、本件譲渡価額に基づいて藤治郎の分離長期譲渡所得の金額を計算することは、同人の所得税の負担を不当に減少させる結果になると解すべきである。

(四)  なお、原告は、本件譲渡価額は相当である旨るる主張するので、これらについて検討する。

(1) 原告は、本件土地の時価額を算定するにあたつては、北野商事による借地権価格を考慮する必要があるから、本件譲渡価額は相当である旨主張する。しかしながら、前記認定のとおり、藤治郎と北野商事との間では、通常考えられるよりもはるかに低廉な地代が支払われており、これに照らすと、賃借人である北野商事に帰属すべき経済的利益を認めることはできない。のみならず、鑑定の結果によれば、前記松宮は、分筆前の敷地に対して経済価値に即応する相当の地代が支払われていたとの仮定に立つて、昭和五八年五月三一日の時点で右賃貸借当事者間における売買および第三者間における売買が行われたとして、本件土地自体の価格を求めた結果、それぞれ八一九三万九九一七円および七七八四万二九二一円の価額を算出したことが認められるところ、これに照らせば、かりに、本件土地につき北野商事に帰属すべき経済的価値をある程度認める余地があるとしても、なお、本件の譲渡価額は、不当に低廉である。したがつて、原告の前記主張は、いずれにしても採用できない。

(2) また、原告は、藤治郎が確定申告前に予め被告の指示に基づき付近の不動産業者に本件土地の時価額を尋ねたところ、更地価格が坪あたり一五〇ないし一六〇万円であるから建付減価を考慮して坪あたり八〇万円であるとの回答を得られたことに照らせば、本件譲渡価額は相当である旨主張し、成立に争いのない乙第四号証の一中には右主張に沿う記載がある。しかしながら、右の内容に照らせば、かりに付近の不動産業者が藤治郎に対してそのような説明をしたとしても、それは当該地域の更地価格および借地権が設定されている場合の借地権割合を一般的に示唆したものであることが明らかであるところ、本件土地についてそのような借地権に基づく減価を認めるべきではないことは、前記のとおりである。したがつて、原告の前記主張は採用できない。

(3) さらに、原告は、本件土地の相続税評価額は一八五〇万円であるところ、時価は相続税評価額の通常二倍前後とされているから、本件譲渡価額は正当である旨主張するが、本件全証拠によつても右評価額およびこれにより時価を算定する倍率がどれだけであるかを認めることはできない。したがつて、原告の右主張は採用できない。

(五)  よつて、被告が本件譲渡につき、所得税法一五七条を適用したことは何ら違法ではない。

3  藤治郎の分離長期譲渡所得金額

(一)  藤治郎が本件土地を昭和二七年一二月三一日以前から引き続き所有していたことは、当事者間に争いがない。

(二)  前記のとおり、本件譲渡価額は所得税法一五七条により否認されるべきものであるが、前記の認定判断に照らすと、分筆前の敷地の面積(地積・八五三・五七平方メートル)中本件土地の占める面積(地積・一四四・一六平方メートル)の割合に基づいて算出された本件土地の時価額が五六七六万七七八八円を超えることは明らかである。

なお、原告は、本件土地は角地ではないから、形状による減価要因を考慮する必要がある旨主張し、前掲乙第一号証および鑑定の結果によると、本件土地が角地ではないことが認められる。しかしながら、分筆前の敷地が本件譲渡の前後を通じ、常に一体の土地として利用されていたことは前記認定のとおりであるうえ、本件全証拠によつても、本件土地につき、分筆前の敷地中独自の価格形成要因を認めることはできない。そうすると、右のとおり、本件土地が分筆前の敷地の中で占める面積の割合によつて本件土地の時価額を求めることは何ら違法ではないから、原告の前記主張は採用できない。

(三)  措置法三一条の四第一項によると、本件土地の取得費は、右時価額の一〇〇分の五に相当する。

(四)  本件譲渡にかかる譲渡費用が二万円であることは、当事者間に争いがない。

(五)  買換資産である本件建物の取得価額が三四六八万五六〇〇円であることは、当事者間に争いがない。

(六)  藤治郎の収入金額は、前記(二)の本件土地の時価額から右(五)の価額を控除した金額であるから、右金額が二二〇八万二一八八円を上回ることは明らかである。

(七)  藤治郎の昭和五八年分の分離長期譲渡所得は、前記(三)および(四)の各金額の合計額に右(六)の収入金額が前記(二)の時価額に占める割合を乗じて得られる必要経費を右収入金額から控除した残額であるところ、右の各金額に照らすと、右所得金額が本件処分で被告が認定した分離長期譲渡所得金額の範囲を超えるに至ることは明らかである。

4  右のように、本件処分が認定した藤治郎の昭和五八年分の分離長期譲渡所得には違法がないから、本件処分を前提とする本件決定も違法ではない。また、原告らが藤治郎の相続人であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告らの相続分がいずれも六分の一であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はないから、被告が原告らの承継した税額および加算税額を別表8記載のとおり算定したことにも違法はない。

そうすると、原告の本訴請求はいずれも理由がない。

三  よつて、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条にそれぞれ従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川口冨男 裁判官 田中敦 裁判官 黒野功久)

選定者目録

大阪市住吉区我孫子四丁目一三番四五号

北野作二

右同所 北野カヅヱ

右同所 北野洋子

大阪市天王寺区四天王寺一丁目八番一〇号

石田みつ子

大阪市住吉区杉本一丁目一三番二七号

田中吉子

物件目録

一 大阪市住吉区苅田七丁目八一番一一

宅地 一四四・一六平方メートル

二 大阪市住吉区我孫子東三丁目七〇番六

家屋番号 七〇番六

鉄骨造陸屋根四階建事務所・共同住宅

一階 四七・二六平方メートル

二階 五四・一八平方メートル

三階 四八・二三平方メートル

四階 四八・二三平方メートル

三 大阪市住吉区苅田七丁目八一番二

宅地 一六二・六六平方メートル

四 大阪市住吉区苅田七丁目八一番七

宅地 一一〇・九九平方メートル

五 大阪市住吉区苅田七丁目八一番八

宅地 一四四・八〇平方メートル

四 大阪市住吉区苅田七丁目八一番九

宅地 一四四・九三平方メートル

四 大阪市住吉区苅田七丁目八一番一〇

宅地 一四五・〇三平方メートル

別表1

被相続人北野藤治郎(共同相続人:北野良作他5名)の昭和58年分の課税の経過及びその内容

<省略>

別表2

被相続人北野藤治郎(共同相続人:北野良作他5名)の昭和58年分の譲渡所得金額の計算

<省略>

別表3

被相続人北野藤治郎の昭和58年分の譲渡所得に係る税額及び加算税において、各相続人が承継した金額の一覧表

<省略>

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